いそがしい日々の合間に

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【映画レビュー】君の名前で僕を呼んで

ぼくはあまりレビューが得意ではないのだけれど、観たものについて残しておきます。

 

君の名前で僕を呼んで」は純粋な恋愛映画で、好きな恋愛映画と言えば「レオン」が

真っ先に出てくるぼくにとってはちょっと苦手なジャンルです

苦手な分野なのだけれども、とにかく美しく仕上げられている作品で観て良かったな

と思える映画でした。

避暑地にある別荘という舞台で展開される、限られた時間での男同士の恋愛。

主人公のエリオの時々見せる果敢無げで弱弱しい雰囲気に不安になって

「こいつトラックに撥ねられて死ぬんじゃないか」と自転車に乗るシーンでは

特に不安になるという不思議な体験をしました。

ぼくは前情報一切無しで観たのですが「これはイタリア映画だ」と思ってみると

安心して最後まで観られると思います。

フランス映画だったら出会って5分後にセックスして6週間ずっと喧嘩してそうですし

ドイツ映画だったらたぶんエリオは自殺しているだろうし、アメリカ映画だったら

背景に火薬が足りないし、とまあそんな感じです。

 

主人公が恋に落ちるオリヴァーは空気読めない、寝汚い、食べ方も汚いし

そのクセ社交的で大らかな、まさにアメリカ人というタイプの青年で

アプリコットなんかよりオレンジが似合う夏の男のイメージでした。

このオリヴァーを見ているとどうしてもシェンケヴィッチの「クォ・ヴァディス」に

出てくるペトロニウスを思い出します。

もちろんエリオとオリヴァーの関係はマルクスペトロニウスとは全然違うのですが

妖艶で怠惰で理知的なところが重なるのかな。

 

映画が進むにつれてエリオの末生り感はギリシア彫刻にしか見えなくなり、

ふと自分がオリヴァーの視点でエリオのことを見てしまう自分に気が付いたのですが

エリオが美しくなったのはオリヴァーがいてこそだから当然かも知れません。

 この物語の大きな支えというか在り得ないほどの救いは彼の両親の存在で

この両親の存在が本当に神々しかったです。

ブロークバックマウンテンのジャックの父親がこんな人だったら彼らの世界は

どうなっていたろうか、と考えずにはいられません。

個人的に予想外なのは彼らの夏はきちんと終わりを迎えたのに、

映画は冬の補足まできっちりしていたポイントでした。

駅での電話からの暗転のある意味でのオープンエンドでも良かったのに、というのが

素直な感想だったのですが、実はこの作品は続編があるということなので

最後のシーンから続きへと結びつけてくれるのかな、と淡く期待しています。